“世の中になかったものをつくる”
売り文句として、聞き慣れた言葉のような気もしますが、世の中になかったものを、その名前が知られるくらいまで広げる。
それくらい心を掴む商品をつくるには、どれほどの苦労と、その先にどれほどの楽しみがあるのでしょうか…
この記事では、その心ゆさぶられるような開発者さんの生き方を、少しでもリアルにお届けしたいと思っています。
目次
長崎県・波佐見町から世界へ
今回取材したのは、これまでなかった機能と品質のセラミックコーヒーフィルターを世に送り出した株式会社 燦セラ(さんせら)さん(以下、「燦セラさん」)
燦セラさんは、開発者である山口さんが2020年の6月に立ち上げた会社です。
新しいものを生み出し、世界に発信するものづくりの現場。
今回、長崎県・波佐見町にある会社にお訪ねし、お話も聞かせて頂きました^^
お話を聞けば聞くほど「そんなエピソードまで…!」と予想外の話が飛び交い、聞きたいことがまだまだありましたが、伺ったお話の一部をご紹介したいと思います。
開発者山口さんのヤンチャ時代
「学生時代は、どんな風だったのですか?」と聞いてみると、地元のヤンチャ業界(?)でも有名だったそうで、友だちや年下の子がいじめられると、年上に構わず、真正面からケンカをして一発でノックアウト。
急所をおさえるのがうまかったそうで(笑)このあと、お話を伺っていても、山口さんは天才肌というか、なんでもポイントをおさえていらっしゃるなぁと感じることがあったので、ケンカでも急所をおさえるイメージは沸きました…!
高校を中退し、身体つきも良い山口さんは陸上自衛隊に入隊。陸上自衛隊の中でも特別な訓練であり、怪我人が続出する
「上空400メートルを時速240キロで走る飛行機から、パラシュートをつかって地上へ降りる訓練」
で一度もケガをすることなく降下。日本で1つしかない「第一空挺団 空挺部隊(くうていぶたい)」で、特殊部隊に選ばれます。
その当時のバッチを見せて頂きました。パラシュートがデザインに刻まれていますね。
バッチを胸にあてて、少しポージングして頂きました! (急にカメラを向けてしまいましたが、ニコってしてもらいました♪)
その後は20歳の時に、ご家族がいる地元に戻ることとなり、家業である波佐見焼の窯に入りました。
波佐見焼の陶芸一家に生まれ、幼少期からずっと触れてきた波佐見焼。家業に入って10年が経った30歳のころ、
「どうしても自分のデザインで作りたい。」
その想いが強くなり、家業の窯は長男しか継げないため、次男坊であった山口さんは、30歳の時に独立。
一作窯(いっさくがま)という新しい窯を立ち上げます。
新しい窯の立ち上げと奮闘
この一作窯は、立ち上げ当初、波佐見焼の陶磁器(お皿やカップなど)を作っていましたが、海外からの安い器が増え、波佐見焼全体の売れ行きも伸び悩む時期が重なり、どの窯も存続していくためには、独自性を求められるようになってきました。
そこで一作窯では、生き残りをかけて陶磁器から一転し、工業用の多孔質のセラミック製品をつくることにしたのです。
これまで作っていた陶磁器は、よくあるお皿などのように
水が漏れないよう完全な器として、孔(あな)のないもの
をつくる必要がありますが、新しく参入する多孔質のセラミック製品は「多孔質」と呼ばれる通り、
適度な大きさで、たくさんの孔が空いている製品
です。適度に水や空気を通す無数の孔をつくる必要があり、その2つは全く異なる技術が必要とされます。
この新しい領域への参入にかけた投資金額は1億円。
このお金も、30歳のとき何も持たずに独立してから一生懸命つくってきたお金です。
それでも従業員の方々を守るためにも、どうにか事業として形にしたい。
まさに一世一代の大勝負。
やってみせると歯を食いしばり、なんとか事業を形にしようと会社をあげて5年間奮闘。
しかし、思うようには事業の収益があがらず、一作窯を畳まざるを得なくなりました。
それでも、やり遂げたい。もう一度、やってみよう。
一作窯でつちかった多孔質の技術を生かして、新たに0から立ち上がりスタートさせたのが、株式会社燦セラです。
世界でセラミックコーヒーフィルターへの挑戦
これまでの経験をフル動員して、独自の技術、お客様のニーズ、地域や環境への還元。やりたかったこと、できることはなんだろう。
そうしてテーマに掲げたのが、「長崎・波佐見から、世界初のセラミックコーヒーフィルター」
生まれ育った長崎・波佐見の地で、大好きな陶芸と、大好きなコーヒーを楽しみながら、
「人生でもう一つ、ワクワクする仕事を成し遂げたい」
「海外の人を感動させるモノを日本から届けたい!」
外来文化であるコーヒーの世界でも、日本の技術力であっと言わせることができるはずだ。そう信じて、一作窯を畳んでからコツコツと開発を続けます。
工場は20坪の小さな場所。夏場は日差しで屋根が高音となり、工場の中は蒸し風呂状態。冬は寒さで手がかじかむような中で、開発を続けました。
「あと一歩」という思いで窯入れし、出てきたフィルターが無残に割れているのを見た時は、自分の力不足と材料への申し訳なさから、言葉を失ったことも一度や二度ではないといいます。
それでも苦労をさらに重ねると、偶然、すごいものができました。しかし、完成度に安定性がありません。
友人への個人的な贈り物としては良くても、商品にはなりません。ましてや、「世界と戦える日本の職人謹製のコーヒー器具」など、夢のまた夢。
しかし、「一作さんのフィルターで飲んだコーヒーが忘れられない」「絶対できるから、応援してるよ」「郷土波佐見のため、何が何でも成し遂げてほしい」という多くの方の声に励まされ、2019年2月、ついにコーヒーフィルターが完成しました。
セラミックフィルターの製造過程
これほどの開発を重ねて出来上がったコーヒーフィルターは、どんな風に製造されているのか、教えていただきました。
1. 配合(材料を図る)
まず材料である10種類ほどの天然の鉱物を配合していきます。
実は最も神経を使う工程の1つで、1gでも配合を間違えると、出来上がる材料が使い物にならないため、慎重に小分けにして計量していきます。
2. 水分を入れて攪拌する
配合できた材料を混ぜていきます。
写真に写っているこの混ぜる機械も、実はオリジナル。同じような製品をつくっている会社が他にないため、製造に必要な機械も、独自の製造方法に合わせて1つ1つつくっているんですね!
機械で水などと混ぜると、こんな感じの素材ができます。すこし触らせてもらうと、ふわふわ、しっとりしていて、ずっと触っていられるような感覚…!
3. 外側(1層目)を形成する
これらの材料を使って、まずはフィルターの外側を形取っていきます。
手の感覚で、土の水分量を調節しながら形作っていきます。
4. 内側(2層目)を形成する
外側ができたら、次は内側です。
実はこのように2層にするのには、理由があります。
外側と、内側は色が異なるというデザイン面だけではなく、焼き上がった時の孔の大きさが異なるように配合されています。
内側を細かくすることで、コーヒーかすの目詰まりを防ぎ、外側を荒くすることで、抽出速度が早くなるように設計されています。
外側(1層目)を作ると、すばやく内側(2層目)も進めないと、乾燥が進み製品の品質が落ちてしまうため、スピードと技術が求められる工程です。
ひとつひとつオリジナルで作られ、大切にメンテナンスをされながら使われているんですね。
5. 縁のバリとりをする
写真右側のようなフィルターの上にある不要(バリ)な部分をとって、左側のような状態にカットしていきます。
6. 自然乾燥
型に入れたまま、だいたい24時間ほど、自然乾燥させます。
さらに使用型から製品を抜いて、さらに6時間くらい乾燥。こんな風に、途中でしっかり乾燥させます。
7. 表面を削って綺麗にする
乾燥したら、表面のギザギザしている部分をサンドペーパーで削って綺麗にしていきます。
この工程では、フィルターの表面をツルツルに仕上げていくので、「自分の頭も丸くしないとできない工程」と職人さんは言っていました(笑) お話を伺った職人さんは帽子を被っていらっしゃったので、頭を丸めているのか見れず、気になります…!笑
8. 焼成(しょうせい)する
いよいよ、ここからは焼成です。
焼成とは、高温で焼き、製品として仕上げること。
窯の中も見せていただきました!
窯に入れるときは、ハマと言われるお皿のようなもの上に載せてから、並べていきます。
窯の中には、こんな感じで何段にも積み重ねて、縦横に並べていきます。
ここから12時間かけて焼いていきます。
途中で、ある程度の温度になったら、ガスが出てくるので窯からガスを抜いてやる作業が必要で、ガスが全部抜けたら蓋を閉めます(電気窯の場合は、この工程も自動でやってくれるそうです!)
そこからは、1260度までグーンと一気に上げていきます。窯の中は焼きムラができないよう、窯の中の温度を上段・中段・下段で、差がないか確認します。
撮影したときに3つ並んだ温度計を見ると、どれも1260度まで均一に上がっているようでした。よかった…!
そうして焼き上がったものの、焼く前と、後ではこんな感じ。
左が焼いた【あと】
右が焼く【まえ】です。
焼くと、内側の色が鮮明になるんですね!
9. 検品する
焼き上がったら最後の仕上げ、検品です。
まずは抜き打ちで、きちんと水を通すフィルターになっているか確認します。
上段・中段・下段の窯それぞれからランダムでいくつか(1窯で150個中20個くらいを)ピックアップして、水道水で水通しをし、速度が一定で通るか確認します。
抜き打ちの検品が終われば、1つ1つ全ての製品を、割れていないか、傷がはいっていないか手作業で確認していきます。
焼く前にも「傷がないか」などはチェックしているので、ここでは、縁が欠けていないかなど、最終検品となります。
無事、検品が終わり、出荷できるものは「検品済」とマークをつけて管理されていました!
会社のこれから
ようやく完成したコーヒーフィルターですが、今でも日々商品の改良がされています(商品の詳細はこちらに掲載しています)
燦セラさんはセラミックの技術力をもった会社として、コーヒーフィルターと別カテゴリの製品も、現在開発中です。
「燦セラは、セラミックで水と空気を綺麗にする」
次の製品の試作品を見せていただきましたが、これも聞いたこともないような製品で、まだ仕組みの理解が追いついていないのですが(笑)
次に伺う際には新しい製品についてももう一歩深く、お話を伺ってみたいと思っています!
そして、燦セラさんが会社を大きくする理由。それは地域への還元でもあります。
波佐見の地域は、若者が安心して将来的にも暮らしていくには、雇用が整っていない部分もあります。焼き物の世界では、一般的に月給制ではなく、日給制が多く、1日働いても多くをもらえるわけではないため、休みなく働くことの多い業界です。
そんな波佐見の地域で、雇用を生み出す。
地域に雇用をつくって、若者がこのまちで暮らしたい場所にする。
現在、製造拡大のため、2500坪の土地を買い取り、第一期工事の150坪の新しい工場の建設準備中です。2022年の夏には新しい工場で、新たに製造をスタートする予定です。
どこまでも挑戦する燦セラさんが、本当にかっこいいです。
さいごに
セラミックの商品で、こんなものがあったらいいのに!というものがあれば、ぜひエシカルハウスのインスタグラムのコメントやDMで教えてください^^
燦セラさんにもお伝えして、改善できるものはトライしてみたり、できるものから企画も考えていきたいなと思っています。ぜひ感想などもお待ちしています!
エシカルハウスのInstagramはこちら
〜おまけ 地元の名ランチ〜
今回の取材では、燦セラさんの近くにある山口さん行きつけのカフェにおじゃましました^^
カメラに向かって、店長さんも、さりげなくにっこりしてくださいました♪
日替わりランチのスープは、紫芋のポタージュ。見ていても楽しい・・
メインは自家製パンと、もちもち美味しいパスタ。
「これは行きつけにしたい・・!」と思うほど、とっても温かい雰囲気で、ほっぺたの落ちるランチでした。また行きたいなぁ。
Arbre-monde(アルブルモンド)さん
長崎県東彼杵郡波佐見町井石郷2248-3
お店の食べログはこちら
<企業プロフィール>
株式会社燦セラ
こんにちは、燦セラです。長崎県の波佐見町という焼き物が有名な地域で、製造しております。開発にあたっては徹底的に味にこだわりました。誰が淹れても簡単に美味しいコーヒーとなることも目指し、日々の暮らしの中で心地よく、たくさん使っていただきたい。そのためにも面倒なお手入れを極限まで減らしました。特許を取得した50年来のセラミックの技術と、4年間の開発期間を経てできたこのコーヒーフィルターで、幸せなひとときを過ごして頂けることは、この上ない喜びでございます。
燦セラさんの商品はこちらからご覧ください
<ライタープロフィール>
中山愛
エシカルハウス代表。神戸大学農学部卒。中学生のときにカンボジアの地雷の話を知り、以降国際協力に関心を持つ。学生時代にインドやカンボジアでのボランティア活動、タンザニアやシリコンバレーでのインターンシップ等の経験を通じ、ビジネスで社会課題を解決したいと思い、大学卒業後ITスタートアップ会社にて3年半従事。その後2021年にエシカルハウスの事業を開始し、現在メンバーや製造者さんと一緒に、エシカルをテーマにしたサービスや商品をお届けしています。