世界中で愛される嗜好品のコーヒーですが、農園での生産者の労働環境、環境負荷など社会課題にも注目が集まっています。そんな課題を解決できるよう配慮されたサステナブルコーヒー。今回は日本国内だけではなく地球全体の課題背景や、取り組み事例などについて詳しく解説していきます。
目次
多くの人に親しまれているコーヒー。その人気は止まることを知らず、消費量は世界全体で年々増えています。日本においても国民1人あたりの消費量は世界4位で、多くの人がコーヒーを日常的に楽しんでいます。
そんな愛されるコーヒーですが、その裏側には苦い課題があることも少しずつ知られるようになり、議論されはじめています。
そんな課題を解決できるよう配慮されたコーヒーが生み出されており、サステナブルコーヒーまたはエシカルコーヒーと呼ばれています。
今回はそんな「サステナブルコーヒー」について解説やご紹介をしていきます。
サステナブルコーヒーとは?

では早速、「サステナブルコーヒー」の定義や注目が集まる背景についてみていきましょう。
サステナブルとは
サステナブルという言葉は、持続可能性という意味を持つ英語のSustainability(サステナビリティ)とable(できる)を組み合わせた単語で、日本語では「持続可能な」という意味で表現することができます。
基本的には地球環境や人が幸福に生きられる状態、社会の在り方について、持続可能かという文脈で使われます。
サステナブルコーヒーの定義
日本サステイナブルコーヒー協会によるサステナブルコーヒーの定義は以下のように定められています。
サステイナビリティー(sustainability = 持続可能性)に配慮したコーヒーのことを、サステイナブルコーヒー(sustainable coffee)と言います。現在のことだけではなく未来のことも考えた上で、自然環境や人々の生活を良い状態にたもつことを目指して生産/流通されたコーヒーの総称です。 |
サステナブルコーヒーが注目される理由
まずコーヒー業界全体においては、これまで多くの課題について議論されてきました。
主にコーヒーが抱える課題として、以下の3つが挙げられます。
- 価格が大きく変動する
- 生産者の貧困
- 安定した生産が難しい
1つ目の価格の大きな変動が起きる理由としては、コーヒー生産量の3割がブラジルにあることが起因しています。ブラジルでの生産量によって国際価格が変動します。実際に2014年にはブラジルで干ばつが起き、コーヒーの価格が高騰しました。
2つ目の生産者の貧困は、先進国で消費されるコーヒーの低価格化によって、生産者に払われる対価が少ないことから起きています。コーヒー生産者の多くが小規模農家であり、経済的に安定せず貧困状態で暮らしている人が多くいます。
3つ目の安定した生産が難しい理由として、コーヒーが気候の変化や菌に弱いことが挙げられます。世界的に注目を浴びている気候変動や森林伐採によって、コーヒーの生産に適した土地が減少していることも原因となっています。
こういった現状を変えていくべく、コーヒーを取り扱う企業をはじめ、さまざまな団体が課題解決に向けて活動をしており、「サステナブルコーヒー」に注目が集まるようになりました。
サステナブルコーヒーの種類

サステナブルコーヒーは3つの種類が挙げられます。それらは、どのような問題に配慮されたものであるかによって、種類が分けられています。それぞれの種類の特徴について具体的にみていきましょう。
シェードツリーコーヒー
おいしいコーヒー栽培の重要な条件のひとつは「木陰で生産すること」です。
そもそもはコーヒー木は、日陰の中でも成長が可能で、伝統的なコーヒーの生育方法はシェードツリーと呼ばれる日傘の役割を果たす樹木の下で育てるものでした。しかし近年はそういった伝統的な方法から、より生産性や収益性の高い近代農法にシフトしています。しかしこの近代農法は、森林を必要とせず、森林減少に繋がっているのです。
シェードツリーコーヒーとは伝統的な育成方法を守り、直射日光を避け、日陰をつくる樹木の中で生産されているコーヒーのことを指します。そんなシェードツリーコーヒーを選ぶことは、森林伐採を防ぎ、自然環境を守ることに繋がります。
オーガニックコーヒー
オーガニックコーヒーは農林水産省が禁止する農薬や化学肥料を使用せずに生産されるもののことを指します。自然栽培などでつくられたコーヒーであるオーガニックコーヒーを選ぶことは、土壌や水質汚染を防ぐことができ、環境破壊を防ぐことに繋がります。
フェアトレードコーヒー
コーヒーを生産する小規模農家や農園で働く人々に対し、適正な賃金や価格で取引を行うコーヒーのことを指します。コーヒーを生産する主に発展途上国に対して最低価格を保証するなどの方法で公平に取引を行います。フェアトレードコーヒーを選ぶことで、人々の労働力を搾取せずに安定した生活に導くことに繋がります。
サステナブルコーヒーの認証団体・認証マーク

第三者機関が設けた一定基準を満たしている商品につけられる認証マークによって、比較的簡単にサステナブルコーヒーを見分けることができます。サステナブルコーヒーにつけられる、代表的な認証マークをご紹介していきます。
レインフォレスト・アライアンス認証
(引用元:レインフォレスト・アライアンス)
レインフォレスト・アライアンス認証は、環境保護と人々を搾取しない公正な取引に働きかける認証制度です。生態系保護や働き手の労働条件等、厳しい基準を満たした生産農園にのみ降りる認証です。
UTZ Certifield
(引用元:レインフォレスト・アライアンス)
上記のレインフォレスト認証は、2018年1月にこちらの認証マークと合併しています。レインフォレスト・アライアンス同様、生産者の労働条件や環境保護の観点で健全な生産・加工方法が採用されているかを基準に認証が判断されます。
UTZ認証マークがあるコーヒーは、持続可能な地球環境と人々の働く環境に繋がります。
バードフレンドリー

(引用元:KALDI)
バードフレンドリー認証は、渡り鳥の生息地である森林を保護するため、スミソニアン渡り鳥センターが推進している環境保護プログラムです。熱帯雨林を守る木陰栽培及び有機栽培を行なっているコーヒー農園を認証しています。それらのバードフレンドリー認証を持つコーヒーの収益の一部は、渡り鳥保護のために還元されています。
国際フェアトレード認証
(引用元:フェアトレードジャパン)
国際フェアトレード認証は生産者を守るため、適正な環境や金額で取引が行われているものを、国際フェアトレード機構が定める基準をもとに認証する制度です。
生産者から搾取せず、適正な価格で長期的に取引が行われているか、労働環境は安全か、生産地は環境保護がなされているかなどを基準としています。
国際フェアトレード認証マークがついた商品を選ぶことで、小規模農家の人々の生活や環境を保護することに繋がります。
有機JAS規格
(引用元:農林水産省)
有機JAS規格は農林水産省が定めた基準を満たして生産されている有機農産物に降りる認証制度です。具体的には、堆肥による土づくりを行なった上で種まき・植え付け前2年以上及び栽培中に、農林水産省が禁止している科学的肥料や農薬が使われていないことが基準となります。
おすすめのサステナブルコーヒー豆4選

小川珈琲店 有機コーヒーバードフレンドリー
(引用元:小川珈琲店)
1952年からコーヒーづくりを行う、歴史あるコーヒーメーカーである小川珈琲店。小川珈琲店は日本ではじめてバードフレンドリーコーヒーを販売したコーヒーメーカーです。2021年現在までバードフレンドリーコーヒーを取り扱い、自然環境を守ることに貢献しています。
販売するコーヒー豆がサステナブルコーヒーであるだけでなく、生産地の女性を支援する団体へ寄付を行うなど、多角的にサステナブルを実現させています。
KALDI COFFEE FARM
(引用元:KALDI COFFEE FARM)
コーヒーを販売する実店舗として知らない人はいないであろうKALDI COFFEE。どこのお店でも、おいしいコーヒーの香りを漂わせていますよね。KALDI COFFEEでも多くの国際フェアトレード認証コーヒーを取り扱っています。
例えば、国際フェアトレード認証がついており、女性の自立の支援となるウーマンズハンドコーヒーを販売するなどの取り組みがあげられます。
また、フェアトレードだけでなく、バードフレンドリーコーヒーや、タイの山岳地帯の人々の暮らしを守るコーヒーなど、さまざまなサステナブルコーヒーを取り扱っています。
SOCIAL GOOD ROASTERS
(引用元:SOCIAL GOOD ROASTERS)
「SOCIAL GOOD ROASTERS」は東京の千代田区に実店舗を持っており、ハンディキャップのある人々がコーヒーの焙煎士やバリスタとして働くコーヒー店です。欠点豆(※)は人の手で検品を行い、店頭では1杯ずつハンドドリップを行うなど高品質なコーヒーを提供しています。
収益は、ハンディキャップのあるスタッフへの給与となるだけなく、コーヒーの生産地の貧困問題の支援などに使われます。
コーヒー豆から、コーヒーの提供スタイルまですべてがサステナブルに繋がるケースです。
※欠点豆とは、取り除かないとコーヒーの風味に悪い影響を与える不良豆のことです。
SISAM COFFEE
(引用元:SISAM COFFEE )
フィリピンで活動するCordillera Green Network(コーディリエラ・グリーン・ネットワーク)によって届けられているSISAM COFFEE。
SISAM COFFEEのコーヒー豆はフィリピンの山岳地帯コーディリエラ地方でつくられており、自然豊かではありながら、厳しい生活を強いられていた小規模農家に対し、環境や伝統を守りつつ、生活を続けていけるコーヒー栽培を伝承しています。
コーヒーの栽培だけでなく、その他さまざまな換金作物や樹木と一緒に栽培する森林農法で育てることで、よりサステナブルな環境と人の生活に繋がっています。
ここにも注目!サステナブルなコーヒータンブラーやコーヒーカップ

多くの人が日常的にコーヒーを飲む中で、コーヒー豆だけではなく、コーヒーを飲む際に使用するものも環境配慮されていると良いですよね。
ここからは、使い捨てなどを防ぐことができるコーヒーグッズをいくつかご紹介します。
Ecoffee Cup
(引用元:Ecoffee Cup)
環境にも優しい素材で、さらに繰り返し使える特徴をもつコーヒーカップ。素材は、プラスチックではなく、竹繊維やとうもろこし繊維、コーンスターチ、アミノ酸由来の樹脂などからできています。Ecoffee Cupの主な素材である竹は、持続可能な方法で管理された竹林の竹を使用しており、化学処理を行っていません。また竹は、木材と比べて成長がはやく、環境破壊を起こしづらい原材料です。
KeepCup
世界初の繰り返し使える「バリスタンダードカップ」であるKeepCup。コーヒーを飲む人たちのためだけでなく、コーヒーを淹れるバリスタが使いやすいデザインになっています。
このKeepCupによって年間80億個の使い捨てカップが削減されているとされています。
また、商品による環境配慮だけでなく、パタゴニアなどが加盟する「1% for the planet」のメンバーとして売り上げの1%を環境保全活動に使用しています。
Melitta(メリタ)のエコブラウン
(引用元:Melitta)
どうしても、使い捨てられてしまうコーヒーフィルターペーパー。繰り返し使えるコーヒーフィルターもありますが、「おいしいコーヒーには紙がいい」という意見もあり、紙タイプの人気は高いといわれています。
その中でもできるだけ環境配慮されたものを選ぶならMelittaのエコブラウン。環境配慮された森林の木材を使用している証明であるFSC(Forest Stewardship Council)認証を取得しています。
サステナブルコーヒーに関する企業・ブランド・団体の取り組み事例

世界的に意識の高まる「サステナブル」に対する活動。コーヒー業界ではどのような動きがあるのか、みていきましょう。
【国際NGOコンサベーション・インターナショナル】サステナブルコーヒーチャレンジ
「サステナブル・コーヒー・チャレンジ」はスターバックスコーヒーと国際NGOコンサベーション・インターナショナルが共同で立ち上げた、サステナブルなコーヒー業界を促進するためのプラットフォームです。
生産過程の透明性の強化、さまざまなノウハウの共有などを行うことを目的としており、マクドナルドやネスカフェなど世界を代表する企業など161の組織や政府が加盟しています。
活動内容はさまざまで、環境保護から農園の人々の労働及び生活環境の改善、お金の流れの透明性などに取り組んでいます。
TORIBA COFFEE 銀座
(引用元:TORIBA COFFEE Instagram)
2021年3月、東京都の銀座に位置する「TORIBA COFFEEがエシカル宣言15ヶ条」をインスタグラムにて発表しました。
世界中から高級なコーヒーを集めるTORIBA COFFEEとして、地球に対して負荷をかけないためにできることを、意思表明しています。
15ヶ条は誰もがイメージでき、大変わかりやすく、具体的なものです。マイカップやマイタンブラー歓迎など、私たちができることから、制服を使い続ける、食品ロスをゼロにするなどの店舗側での活動などさまざまな活動が挙げられています。
まとめ :サステイナブルな暮らしをコーヒーから始めよう

人気が高いからこそ、多くの議論がなされるコーヒー業界。近年SDGsムーブメントもあり、より一層サステナブルなコーヒーには注目が集まっています。
世界がより良い方向に変わっていくには、私たちの日常における選択のひとつひとつが大きな影響を与えます。みなさんもぜひ、明日の1杯をサステナブルコーヒーに、コーヒーを飲む際のグッズを少しでもサステナブルなものに変えてみませんか。
<ライタープロフィール>
大野 雛子
フィリピンの雇用を生み出すはちみつ屋さん、Island Honey Works(株)代表。大学時代にフィリピンの貧困に触れたことをきっかけに、社会の不平等や不均衡に関心を持つ。フィリピン現地のサステナブルツーリズムを掲げる旅行会社に勤務後、複業として編集や広報にも携わりながら、株式会社ボーダレス・ジャパンのボーダレスグループとしてIsland Honey Works inc. の代表を務め、現在フィリピンで暮らしています。
Twitter@pinako0323
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